全日本柔道連盟は、2013年8月に「暴力行為根絶宣言」を発出し、柔道における暴力の存在は決して許されるものではなく、柔道指導者はもとより柔道を行うすべての者に対し、いかなる暴力行為も行わないことを強く求めてきた。
しかし、一時は改善の兆しを見せたかに思えた暴力行為問題であったが、「選手の能力向上のためには指導の中で暴力も必要である」と妄信する指導者や年長者による暴力行為は収まることがなく、上記宣言以降も、多くの暴力等事案を全日本柔道連盟における処分の対象としてきた。
上記のような状況が続く中、本年9月には、兵庫県内の中学校において、柔道部顧問である教師が、柔道部員に暴力行為を加え、大けがを負わせる事件が発生した。この事件に象徴されるように、近年、今回の事件のような身体的暴力のみならず、言葉や態度による威嚇、威圧、人格の否定、いじめなどの行為が後を絶たず、誠に慚愧に堪えない。
嘉納治五郎師範は、「精力善用(善を目的に心身の力を最も有効に使用すること)」「自他共栄(自分と他人との調和をはかり、お互いが繁栄して行くようにすること)」を柔道の根本に据え、日々鍛錬し技を磨く中で、心の修養に努め、「自己を完成し、世の中の役に立つ人になる」という究極の目的に向かって努力して行くことが最も大切だとしている。柔道に高い精神性を求められたのであり、柔道に暴力は決して存在してはならず、暴力と柔道は、決して相いれないものである。
以上を踏まえ、全日本柔道連盟は、全柔道人の総意として、再度、暴力行為根絶を以下のとおり宣言する。
1 柔道指導者は、柔道に暴力は決して存在してはならないことを理解し、殴る、蹴るなどの身体的暴力はもちろん、威圧や脅迫、暴言等の精神的な暴力も、自らの主観的意図にかかわらず、決して許されないものであることを強く自覚する。また、いわゆる愛の鞭なる言葉で美化される暴力などは、決して柔道と相いれないものであることを強く認識する。
2 柔道指導者は、選手を強化するためには暴力による指導もやむを得ない、自分たちもそのような指導を受けて育成されてきたなどという誤った認識を捨て、暴力による強制と服従では、自律的で優れた競技者や強いチームの育成を図ることはできないことを強く認識する。更に、指導を受ける者の資質やニーズを考慮し、常に、指導を受ける者とコミュニケーションを図り、信頼関係を構築し、指導を受ける者が、主体的に競技力を高めるために必要な練習方法等を考え、判断することのできる能力を向上させるように努める。
3 柔道指導者はもとより、柔道を行う全ての者は、いかなる身体的・精神的暴力も行わず、また、いかなる暴力行為も黙認せず、柔道の場からのあらゆる暴力の根絶に努める。
全日本柔道連盟は、本宣言発出後も、上記暴力行為等を行った者に対しては、これまで以上に厳しい処分で臨むことを宣言する。
2020 年 10 月 30 日
公益財団法人全日本柔道連盟
会 長 山 下 泰 裕